第128回 早期退職した労働者に対する貸付金等請求の可否
弁護士の内田です。
暑くなりましたね。まだ暑熱順化しきれていないからかもしれませんが、外を数分歩くだけでグロッキーになります。
仕事柄、エアコンの効いたところにずっといますので、暑熱順化しないままに秋を迎えそうな気がします。
企業では、熱中症に注意しなければならない季節ですね。然るべき対応を採らなければ、労災、さらに安全配慮義務違反を問われるおそれがあります。厚生労働省が公開している「職場における熱中症防止のためのガイドライン」などを参考にして、対応していきましょう。
さて、本日のテーマは「早期退職した労働者に対する金銭請求の可否」です。
現在、労働市場は売り手市場であり、企業は様々なコストをかけて人材の確保を試みています。その中で、労働者に対して、資格取得のための費用を援助したり、さらに進んで入社前から学校の費用を会社が援助してあげたりしている例もあります。
ただの「援助」(贈与)であればよいのですが、企業も当然投下した資本は回収したいので、金銭消費貸借契約書や雇用契約書に「○年以内に退社した場合には、会社に全額返済しなければならない。」「入社しなかった場合、若しくは○年以内に退職した場合には、会社に全額返済しなければならない。」といった規定を設けます。こうした条項は、労働基準法第16条が労働契約の不履行について違約金や損害賠償額の予定を禁止していることに反して無効にならないのかが問題となります。
本条は、歴史的に、借金を形に無理やり働かせるということがなされてきたため、そうしたことを禁止する趣旨の規定です。そのため、裁判所は、こうした貸付制度等の有効性については、実質的に強制労働のような結果に繋がるおそれがないかを検討して判断を下しています。
リーディングケースは、広島高裁平成29年9月6日判決で、この事件では、就職後6年以内に退職した場合は一括返金、返還額は108万円で原告の基本給の約10倍だった、という事案でした。裁判所は、実質的には強制労働させるものとして無効との判断を下しました。
この裁判例に照らしますと、(1)返還額が当該労働者の賃金の何倍に当たるか、(2)返済は一括か分割か、(3)何年間働かないと罰(一括返済等)があるのか、などが重要なファクターになりそうです。
なお、この裁判例は、労働基準法上、有期雇用契約の上限3年になっていることを指摘して「6年は長すぎる」としているので、(3)については3年がギリギリ許される範囲になりそうです。
ファクター(1)及び(2)のうち、(2)については、期間内に退職しても一括払いとせず、分割のままでよいとすれば有効になる可能性が高まるといえそうです。(1)については、分割であれば多少高額であっても「実質的に退職できない」ということにはならないと考えられます。
たとえば、上記の裁判例で有効の規定にしようと思ったら、(1)金額は108万円、(2)入社3年後から3年間の分割払いをスタート、(3)貸与額×(就職してからの経過月数/36カ月)を免除するという免除規定を設置、といった条項が考えられるところです。
「これだと簡単に辞められてしまうのでは?」と思われるかもしれませんが、法的にはこのあたりが限界ですし、これでも、就職・3年間継続勤務のインセンティブは十分あると思います。
また、経験的に、入社後すぐに退職される方は、本当に入社数日、数か月で退職します。逆に、1年以上勤務して仕事に慣れるほど退職率は下がります。ですので、まずは、1年だけでもしっかりと勤めてもらうことが大切なのかなと思います。
いかがだったでしょうか。
入社日に退職代行を使って退職、そんな人もいると噂には聞いていましたが、私もついにそういった事案の相談を受けました。
数年前、まだ退職代行という言葉が市民権を得ていないときに、退職代行というサービスをしていると耳にしたときは、「退職届を出すだけでしょ。そんなサービスに需要はないでしょう。」と思っていました。ですが、今ではこれが一つの産業になっています。
たしかに、悪質な手法で退職を妨害してくる業者もいないではないですが、現在、退職代行がそうした悪質業者相手に使われているかと言うとどうもそうではなさそうで、むしろ、時間・金・気力などを使って暖かく迎え入れようとしていた人たち(会社)に対しても使われているようです。
世知辛い世の中になりましたね。
以上








